政 策 提 言 <1> 


塩釜港開発株式会社再建計画に関する提言書
◆提言趣旨

 平成7年にオープンした『マリンゲート塩釜』を運営する塩釜港開発株式会社の経営破綻が危惧されるようになったのは,一連の金融危機や証券会社の不祥事がマスコミをにぎわしている平成9年ごろからであった。平成11年4月統一地方選挙における塩竈市長選挙において、三升正直市長が2期8年の実績を踏まえ三選出馬を表明すると、対立候補が2名出現しこれらの候補者が選挙戦術としてマリンゲート塩釜の赤字問題を大々的に取り上げた。三升陣営と私も含め応援した議員は、マリンゲートは大丈夫と主張してきた。幸い三升市長は当選を果たしマリンゲート問題は何事もなく解決すると思われていた。しかし、平成11年2月定例会に報告された宮城総研の『経営原価の調査・分析』を受けて纏められた『塩釜港開発株式会社経営調査委員会』の経営改善策について、所管の産業常任委員会で質疑が開始されると、塩釜港開発株式会社の経営実態が明らかになり赤字問題が再度市政の重要課題として急浮上するに至ったのである。
 この提言書は、これまでの産業常任委員会資料や定例会議事録などの一連の議会資料に基づいて、塩釜港開発株式会社の経営赤字問題に関して市議会として政策的な議論が出来なかった責任を重く受け止め、今後の塩釜港開発株式会社のマリンゲート経営方針を推定し、あわせて最大株主である塩竈市(宮城県)と塩釜港開発株式会社の関わりについても献策を試みることで、行政側からの情報にだけ頼ることない、政治判断の根拠となり得ることを実現しようとするものである。

1. はじめに
 これまで多くの議論がされてきましたので、はじめに考えられる課題の整理を行います。市議会の質疑応答から議会が問題としている点は以下のように整理できます。
@ 第三セクターの設立にあたり中心的役割を果たした塩竈市と宮城県は、累積赤字により会社経営が不安定になったことに対して、どのように対処すべきか。
A 株主は地元企業が多数を占めているが、経営陣(取締役会)には少数である。そこで、最大株主である塩竈市から派遣された役員は、社外役員(非常勤取締役)とはいえ、地元株主の代表として参画が求められていると判断するが、この意味でのこれまでの活動は満足できるものであったのか、また今後はどのようにしてこの立場を確保(地元代表)していこうとしているのか行政の姿勢が市議会には見えてこない。
B 現状示されている累積赤字について、その発生原因は何か、今後はどのように推移するのか、市議会に示された緊急融資と経常経費の部分負担で本当に経営は好転するのか。戦力の逐次投入は歴史的にも良好な結果をもたらしていない(金融危機の政府対応など)にもかかわらず、再建策として提案されている逐次投入(毎年度定額負担=6500万円、11年目からは2500万円)で十分とする根拠は何なのか。
以上が市議会の質疑の論拠を要約してみたものであるが、一般市民も読売新聞や河北新報の報道記事に触れ疑問や心配が発生している。以下は一般的な商工業者や市民そして地元株主などの声を要約したものである。
C 第三セクターとはいえ民間会社になぜ公金を投入できるのか。
D 今回の危機は、市長選挙のときには大丈夫という宣伝だったのに、あれは嘘だったのか、このことは明確にしてほしい。
E 床を賃貸しているだけでも赤字なのに、ブライダルだとかマリンスポーツなどまで営業範囲を拡大したら、また赤字が膨らむだけでないのか心配だ。
F 将来は港奥部の再開発もこの第三セクターが担うと聞いているが、この赤字を埋めるため再開発から収益を上げることになったら、不動産業の開発と同じになるのではないか。(第三セクターの必要性はなくなるのではないか)
G 市役所の他の事業に財源的に影響がでるのではないか、ひいては市民利益を損なう結果で終わる危険はないのか。
H 逐次投入の再建策では、毎年の予算審議のたびに問題提起されるのでないのか、やるなら一発で再建策を出すべき。
I 塩竈市が支援するのは、これまでの関わりから言って当然だと思うが、宮城県にも応分の負担を求めるべきでないか。
等など多くの関心が寄せられている状況である。
 これらのことを踏まえ、問題点を客観的に整理し、行政と議会の役割を検討しながら、経営の安定化策を立案してみることにしたい。


2.問題点の分類
 前段で疑問や要望的質問などを羅列してきたが、大雑把に分類すると以下のようになるのではないかと思われる。

2.1.経営上の問題
 これはある意味では、塩釜港開発株式会社の経営責任者と出資者を代表して経営に参画している経営陣の問題と言うことが出来る。一方、出資者の期待も出資者の数だけあることになり、この意味では塩竈市が出資を決意した時点の行政目的を再度検証する必要があると思われる。民間会社の経営上の問題であるから議論できないなどと言う意見は意見として、本文では、設立時の趣旨にたって経営上の問題を整理しておくことにする。まず、塩釜港開発株式会社の赤字の原因は何か?経営を安定させるための方策はなにか?以上2点が経営上の問題である。


2.1.1.塩釜港開発株式会社の赤字の原因について
 これまでの議会資料から明らかになるように第1の原因は、建設事業費が大きすぎたことが上げられる。つまり、出資金に加えて建設時の長期借入金が大きくなり、この返済が固定的支出となって経営上の裁量権を著しく小さくしてしまったことである。
 この建設事業費が大きくなった原因は、塩竈市が設立される第三セクターに港奥部再開発のリーディングプロジェクトの性格を持たせたため、マリンゲートをシンボル施設と位置付けせざるおえない状況を形成してしまった結果である。これが、会社経営上は単なる賃貸床施設を大規模なショッピングモールの概念で経営する原因も生み出してしまった。このことが、主要な売上の(収入)である賃貸料の設定にあたり、売上歩合制という変動要因を盛り込む結果につながった。この状況を変えない限り安定した経営はありえない。(収入がテナントの売上により変動したのでは、固定額の支出である長期債務の償還にも不安がつきまとうことになる)
 2番目の原因としては、設立時の株主の一部が経営する大型レストラン『ボースン』への連帯保証や肩代わり返済があげられる。マリンゲートに大型レストランが必要だとする根拠は、大型レストランが他のテナントへの入店者や観光客の拡大をもたらすとの理念に基づいている。昔の旅客ターミナルは観光上屋の名称で2階建ての建築物であった。したがって大型レストランがあれば、団体観光客が増加するだろうという希望は確かに存在したと考えられる。しかし、マリンゲートは大規模ショッピングモールではなく、観光旅客ターミナルである。必ずしも大型レストランが必須施設とは言えないのではなかろうか。この認識の相違がボースンへの貸付の拡大を発生させ、最後は塩釜港開発株式会社が肩代わりせざるおえなくなった要因とみなすことは不自然とは思えないのである。ボースンへの経営理念を超える肩代わりをしてきた論拠は、希望に基づくものであったと考え、この貸付金が経営上の負荷にならない対策を早急に決断すべきと考えるものである。


2.1.2経営を安定させる方策について
 経営を安定させるためには赤字の原因を取り除くことに尽きるので、まず、建設費拡大の原因となった外装などの装飾的事業費は、行政側の誘導的補助とみなすことも検討に値すると思われるが、より現実的には出資金の取り崩しと借入金でまかなった床(建築物)を行政(塩竈市)が取得する方法が良策と思われる。塩釜港開発株式会社側からみれば床は財産であり、賃貸収入の根幹を成すものではあるがこれを売却することで 一時的な収入になり、これを持って長期借入金のうち民間金融機関からの債務を返済することで営利床の面積と必要な収入を小さく設定できることになる。この詳細については別添資料にて概算した結果を見ていただきたいが(議会に提出された資料のみで経営分析した)、営業床の50%を480,000千円で取得し、塩釜港開発株式会社の一般管理費を20〜30%程度削減することで経営は安定できると思われます。
 次に、過去の連帯的債務(ボースンの借入金と同社への貸付金)については、実質的経営責任者に返済を求める交渉をおこない、これを圧縮しておくことで経営規模は小さくなるが、塩釜港開発株式会社の経営は安定したものになると思われる。
 
 注―1:実質的経営責任の所在=常勤取締役の経営責任、代表取締役(社長=市長)には道義的な責任はあるものの、実質的には商法上、民法上の弁済を追うような責任はないと判断できる。…以上は別途法律の専門家に「善良なる注意と管理の責任」ならびに「経営判断原則」等に抵触するものかの判断を仰ぐ必要があります。

 注―2:塩釜港開発株式会社の子会社である『ボースン』が、約束手形を使用している場合、支払い責任が塩釜港開発株式会社に及ぶのか?また、ボースンが借り入れた資金の返済義務など、会計や経理情報を入手できる立場で別途判断が必要になります。
(ボースンの負債額と塩釜港開発株式会社の返済義務額は資料として提供されたい)


2.2.第三セクターと行政の関係上の問題
 民間活力を求めて第三セクターを設立する場合に、行政が期待する民間活力とは何でしょうか。1、資金 2、経営ノウハウであったと思われます。ただし、この両者とも活動的ではあるが、収益を尺度にしてダイナミックに動くことにある。つまり、収益を基準として出る・引くの判断が早くかつ明確なことを民間活力というのである。
しかし、民間側にもより社会性を高めて企業の存在意義を社会に認知させたいという願望があったはずであり、官と民の願望のバランス上に成立するのが第三セクターであると考えるものである。つまり、官側とっては民間の資金の供給と意思決定の早い経営感覚を必要とするものであり、民間側にとっては、収益もさることながら公益的意義が起業に付与されることがもとめるものである。とはいえ、民間資金は収益を担保に動くのであるから、現在は収益が無くとも将来性にかける場合も多々あると思われる。
 塩釜港開発株式会社の設立の時期にさかのぼって検証してみると、参加する民間企業の収益分岐点を将来においていたり、設立目的の公益性に参加理由をおいたりと混乱が見られた。地元企業の出資理由は、大半が地域のためという公益事業への参加を第一にしている。ここに収益が判断尺度になりにくい原因がある。つまり、本来企業は収益から税を負担することで間接的地域貢献(社会性)をするものであるのに、参加した理由が公益事業への貢献では、撤退の判断が収益ではしにくくなるのであろう。これは誤りである。また、同じく出資した官側は、もともと公共事業を実施すべき団体であるから、出資理由はもっぱら塩釜港開発の公益性を挙げるしかないのである。そして、塩竈市だけで、もしくは宮城県だけで実施するよりは初期の投資額が小さくなるメリットを強調するしかなかったのではないだろうか。
 また、本来公共的性格が強い特定施設(旅客業務関連施設等)についても建築物が一体的に構築されることから、営業施設(営利施設)との面積案分等での建築費負担をしてきた。当初の建設事業費には、各種の国庫補助や民活促進の誘導策など財源対策が充実していたように説明を受けていたように思う。今我々は、この補助の根幹である公共的性格部分にも民間資本が充当されたことを理論的に整理する必要がある。この公共施設の整備は本来的には公共団体が実施すべきものであるとの認識たち、一時的に塩釜港開発株式会社が先行建設したものと考えることは無理なことではないと思われる。
 そこで、これを取得し本来的な公共施設として運営することが、塩竈市(宮城県)と塩釜港開発株式会社との関係を整理する上で肝要であると考えるところである。


2.3将来の期待と現状の乖離について
 塩釜港開発株式会社を設立する際、設立趣意書では港奥部再開発を担う第三セクターとされていたはずです。これが今日の混乱をもたらす原因のひとつであると考えざるおえません。港奥部再開発は、その基礎的環境の醸成など課題が山積みしているにもかかわらず、将来的希望を組み込んで第三セクターの設立にあたったことから、出資者の思惑が拡大し、すぐにでもこの会社が再開発を運営するような希望的誤解が生まれ、かついつまでも関係者がその錯覚にしがみついたことが現状から遊離した経営に走る要因と考えられます。また、設立にあたっての先進地視察などに釧路などが選択された結果、マリンゲートがあたかもショッピングセンターやデパートなどと同一の経営感覚で運営される下地を形成したことも今日の問題の原因であると思われる。
 では、マリンゲートの現状は何なのか。客観的に塩釜港開発株式会社の現在を貸しビル業を営む会社と考えれば、経営方針も経営安定化策もひとつの方向に定まってくると思われます。すなわち関連子会社であるボースンとの貸借関係は別途整理すべき問題と位置付けて、貸しビル業の不振の原因を取り除くことが経営安定化の方策の一つとなるのではないでしょうか。
 また、塩釜港開発株式会社の現在資産は、マリンゲートのみであるがそれこそ将来的には、港奥部の土地の一部や建築物を取得し同区域の再開発事業において中心的役割を担わせる事業体に育成していく必要があると思われる。この意味において現状で同社を整理(商法上の整理もしくは破産法の破産など)することは、損失を最大にする下策と判断している。
 この判断は、政治的立場(三升市長を支持するか否か)によって大きく異なる問題であるから、最終判断は難しいものがあるが、現在の状況から判断すれば今マリンゲートを整理することなど論外といえる。


3.関係機関の役割と再建策について
 この問題の関係機関として、次のようなグループ分けが可能である。
(1) 行政側グループ
@ 塩竈市 A塩竈市議会 B宮城県 C宮城県議会
(2) 民間側グループ
@ 地元株主(観光船グループを除く) A地元テナント B観光船グループ
C大手建設グループ Dその他地元 Eその他中央
 ここでは特に塩竈市と塩竈市議会ならびに宮城県の役割について検討してみたい。
まず、塩竈市の役割であるが、これは再建策の立案と客観的な将来経営予測を公表することが中心である。
 再建策の提示に関しては、提案する策ごとに経営状況の将来予測を実施し市議会に妥当な判断を求めることに専念する必要がある。現在検討されている再建策については、宮城総研の答申に基づくものと聞いているが、最初はこの案で実施した場合の経営安定度を財務分析手法で数値化する必要がある。さらに、この案を尺度にして代替案を構築し市議会の判断に誤りなきよう選択肢を提案すべきである。
 市議会においては、塩釜港開発株式会社の将来課題を一時的に棚上げし、現在の同社の性格を貸しビル業と認識して、その上で再建策を正当に評価すべきである。検討にあたっては、ボースンの問題は別途議論することにし、まず塩釜港開発株式会社の経営安定化のため重すぎる荷物(営業床の面積など)を整理するか、または、定款の拡大をおこなって営業範囲を拡大して経営の安定化を図るのか、この相反する方針を決定するのが市議会の当面の役割と考えている。
 次に、宮城県の役割であるが、マリンゲート建設にあたり民間資本の中核として住友商事を選択した理由を再検討され、現状認識との乖離を早急に埋める方策を検討してもらう必要がある。具体的には、商社を中核資本と設定した結果が現在の状況なのであるから、その妥当性を再度検討していただき、今宮城県が実施可能な経営安定化策を早急に立案するように要請をすべきと考える。
 私見ではあるが、財政問題が取り沙汰されている宮城県が実施できる策は限られてくると思われるので、行政財産である塩釜港開発株式会社の底地を普通財産に組替えて同社に譲渡することなどが主要な施策となるであろうと思われる。このことが実現すれば、塩釜港開発株式会社は、運営資金を同地を担保に民間金融機関から短期借り入れが可能となり、短期運営資金の提供を塩竈市に仰ぐ必要がなくなり、収益判断に根ざした経営に専念できる状況が形成されると思われる。
 次に、民間側の役割であるが、観光船事業者以外の株主は賃貸床の設定を早急に見直す必要がある。つまり、出資金で建設した会社の財産(床)を塩竈市に有償譲渡することで、営業の範囲が縮小(収入と支出の両方が縮小)することになるので、その状況に見合った経営方針を策定することが急務である。これは、地元株主会を結成し代表取締役社長と同社の経営陣ともども将来予測(シュミレーション)の上に立ち決定していく必要がある。また、決定にあたっては、再度宮城総研か外部コンサルタントに将来予測の作成を委託して、経営判断の支援資料とすることなども早急に検討すべきであろう。
 最後は、観光船事業者の立場を整理する必要がある。このグループの役割はマリンゲートにおいては、中心的事業者であることを認識すべきである。将来、塩釜港開発株式会社が再開発を担う段階がくれば、中心的立場でそれなりの業種へ委譲されていくことになろうが、しばらくは、中心的立場で営業してもらう必要がある。すなわち、観光事業者が、観光事業の中核でありこの附帯的位置に物産事業者などが位置付けられるのである。そこで、観光船事業者の方々が使用する範囲は半公共的施設であり、この判断は、民活法においても特定施設として優遇されていることからも明らかである。
 この床の貸借にあたっては、行政施策の範囲で検討されるべきであり、以前の観光上屋の性格での判断が求められる。


4.ボースンとの関係の整理(参考)
 最後にボースンとの法的問題の整理をしておく必要がある。
 この問題は、本質的には株主と経営陣との間で解決すべき問題であるが、塩釜港開発株式会社の設立が大きな将来構想のみ論じられるような状況下で実施されたこと、また、塩竈市が同社の最大株主であることから経営上の責任も取締役個人に帰結できないことなど、さらには、塩釜港開発株式会社の経営安定化を検討するにあたり、負債の整理が回避できない課題である以上最後に検討しておくべきと判断した。本件の検討は取締役会、特に常勤の取締役責任が厳しく問われることから、本来は弁護士など専門家に判断を委託すべき内容と思われるが、ここでは一般論として考えられる法的問題と対応案について記述しておく事にする。
(1) ボースンと塩釜港開発株式会社の関係ならびに貸借関係について
マリンゲートのテナント売上と観光客の拡大に大型レストランが必須の施設であるとの認識に立って、もしボースンが撤退すれば塩釜港開発株式会社も存続できないような説明が強調され、あたかもボースンを存続させることが塩釜港開発株式会社の存続と一体不可分であるような認識が生まれてしまっている。このことは、過去の大型レストランがない観光上屋の時代と現在までを比較し、団体客入れ込み数とボースン利用者の相関関係を明確にする必要がある。私見ではあるが、大型レストラン目当てに(目的)観光客が来るなどということは、松島観光の特性からいってもありえないのではないだろうか。つまり、ボースンの存在は観光客の拡大にそれほど貢献していないのではないだろうかと推察することができる。仮にボースンがそこでしか味わえない特性を発揮し、ボースンを目的に客が来るようにならないと従前の仮定は成立しないと思われる。しかも、その結果で周囲に好影響を与えるためには、経営問題が発生するような入り込み客数ではないはずであり、今日的状況を見る限り好影響よりは経営の重荷になっていると断定せざるおえない。以下はボースンを整理するとの前提に必要な資料や今後の法的課題を列挙してみたい。法的課題の整理に必要な資料として、以下のような資料の提供を求めるべきである。
@ ボースンの負債総額と借入先一覧
A 借入先ごとの返済額ならびに返済期日等返済にあたっての約定
B 塩釜港開発株式会社が返済を補償している借入金総額
C 手形発行の有無と決済期日
D ボースン減資増資にかかる株主総会特別決議
以上ボースン経営側に求める資料

考えられる法的問題
(1) 代表取締役と取締役の経営責任
* 民法644条に規定される『善管注意義務』による責任
経営陣が、株主から委任された経営責任を果たさなかったとする、責任追及を受ける恐れがありこの対応は非常に難しい。
(2) 取締役の責任
* 商法260条二項に規定される取締役で決定すべき重要な事項
多額の貸付など経営の根幹を揺るがす事項が取締役会の決議を経ないで実施された事に関する責任。
(3) 経営会議と取締役会の分担と責任を明確にしなかった責任
 本来商法では、取締役会に経営の責任を与えています。これをさして最近で  はボード(経営会議)などと言われていますが、塩釜港開発株式会社の場合取締役会のほかに経営会議メンバーが存在し、実質的な経営事項の決定が行われていたようです。これは取締役の大半が社外の社員であり常勤取締役が少ないことから、塩竈市の職員を加えて経営会議を開催し、取締役会の追認を得ていたと思われます。このことは、最大の経営責任を負うべき取締役会を形骸化し、個々の取締役の経営判断を誤らせた原因と言われた場合、抗弁の道が見つかりません。
(4) ボースンの役員と塩釜港開発株式会社の常勤役員を兼務したことの責任
 常勤の取締役は、実質的に経営の責任者であり、代表取締役が他の組織を兼  務していることから、経営責任の最大の所在は常勤取締役、しかも専務などの役付き取締役にあると判断されます。この責任はあくまでも個人責任であり個人賠償を求めることが可能と判断されます。しかも、常勤役付き取締役はボースンの設立にも深く関わり、減資の際には親会社の責務の圧縮なども実施していると思われます。商法では、減資にあたり債権の保護がうたわれております。保護とは、債権者の同意無くして減資は出来ないとの意味であり、減資をボースンが決定する際には、当然塩釜港開発株式会社では債権の一部放棄などが検討されたはずです。これも結果として損失拡大の原因となったと推定されますから、あわせて常勤取締役の個人責任と賠償の義務は逃れられないのではないかと思われます。


5.まとめ
 以上問題点を整理しながら検討してきたが、塩釜港開発株式会社の経営安定化策を次のように立案したい。
1・民間資本を結集して建築したマリンゲートから、建築に要した民間金融機関か  らの長期債務に見合う床を塩竈市が取得する。この床の使用範囲は、まず産業部庁舎としての利用、次に観光上屋的な行政施設としての利用(特定施設として建設した床を行政床として取得して、観光船事業者に使用してもらう)さらには、産業(商業)振興施設として水産加工商品のパイロットショップなどに利用するものとする。
必要な費用の捻出にあたり、産業部庁舎として利用する部分は、庁舎建設基金などで対応する。
2・宮城県の責任と今後の役割として、経営安定化のために行政財産である用地を塩釜港開発株式会社に譲渡してもらい、同社はこの土地を担保に根抵当を設定しメインバンクから必要に応じて短期資金(運転資金)の借り入れが可能となるように設定してゆく。
(経営判断に応じた短期資金が借り入れ可能となる)
3・取締役会の充実と常勤取締役の設置を急ぎ実行する必要がある。現在実施されている経営会議は、商法上の位置付けも不明確であり責任のない人間が口だけ出すような事態も考えられることから、これを廃止するか、もしくは取締役会をもって経営会議と正式に設定する。さらに、最大株主である塩竈市と宮城県は株主責任を果たすべく経営陣に役員を派遣する。なお、この役員については常勤として扱い報酬も正規に支払うものとする。
(この役員は塩竈市と宮城県で人選するが、公務員の立場に無いものを選択)
4・関連子会社の整理と旧常勤取締役、ならびに住友商事と仙台放送エンタープライズに対してボースン関連債務の整理を求めていくべきである。まず、ボースンは、営業床が塩竈市に売却されることで、営業を継続できないことになるので会社は商法により整理する。次に、塩釜港開発株式会社の経営を危うくさせた責任を旧常勤取締役2名に求める。また、同社から運営業務委託を受託していた住友商事と仙台放送エンタープライズは、契約上の目的を達成出来なかったのであるから、契約金額の返還交渉とボースン債務の解消資金の提供に応じるよう交渉を開始すべきである。
(本件は専門機関に委託して検討)
5・以上の経営安定化策(再建策)を検討するにあたり、市議会ハ財政的負担を検討するだけでなく、同社の経営安定化への実行を判断すべきである。戦力の逐次投入は、古今の戦史を見ても、また、先般の日本政府における金融危機解消策の結果をみても実効のない策に終わっている。このような視点から当局の予算を伴う提案に関し実際効果の尺度で判断ができる議会として研鑚が必要と考えます。

備考:参考にした文献は次の通りです
@ これまでの議会資料
A 『取締役の法律知識』日経文庫 中島茂著
B 『良くわかる財務分析』日本能率協会編
C 『財務諸表100の常識』日本経済新聞社編